頚椎症とは?手のしびれ・首の痛みの原因と治療法を脳神経外科医が解説
皆様、こんにちは。
すぎなみ脳神経外科・しびれ・頭痛クリニック院長の遠藤です。

今回は、首の痛みや手のしびれの原因として非常に多い「頚椎症(けいついしょう)」について解説します。
頚椎症は、中高年以降の方に多くみられる疾患です。
当院にも、首の痛みや手のしびれを訴えて受診される患者さんが数多くいらっしゃいます。
しかし、一口に頚椎症といっても、軽症で自然に改善するものから、手術が必要になるものまで様々です。
私は以前、脊椎センター長として数多くの頚椎疾患の診療や手術に携わってきました。
その経験も踏まえ、頚椎症の症状や治療法、特に注意すべき症状について、できるだけわかりやすく解説したいと思います。
頚椎症とは?
頚椎とは、背骨のうち首の部分にあたる骨のことです。
全部で7個の骨から構成されています。

頚椎の間には「椎間板」というクッションがあり、首を動かしたり、頭の重さを支えたりしています。
しかし、年齢とともに椎間板が傷んだり、骨が変形したりすることがあります。
このような加齢に伴う変化を「頚椎症」といいます。
頚椎症が進行すると、骨の一部が突出したり、靱帯が厚くなったりすることで、神経の通り道(脊柱管)が狭くなることがあります。

その結果、首の中を通っている神経が圧迫され、手のしびれや痛み、筋力低下などの症状が現れることがあります。
ただし、ここで知っていただきたいことがあります。
頚椎が変形しているからといって、必ずしも症状が出るわけではありません。
実際、MRIで頚椎症が見つかっても、まったく症状のない方も大勢いらっしゃいます。
これは腰椎でも同じです。
加齢による変化があることと、それが症状の原因になっていることは、必ずしも一致しないのです。
頚椎症には2つのタイプがある

頚椎症を理解するうえで、ぜひ知っていただきたいことがあります。
それは、圧迫される神経の場所によって、症状も治療方針も大きく異なるということです。
まず、簡単に首の解剖を説明します。
頚椎(首の骨)の中には「脊髄(せきずい)」という太い神経が通っています。
脊髄は、脳からの命令を手足に伝えたり、手足の感覚を脳へ伝えたりする、非常に重要な神経です。
そして脊髄からは、左右に細い神経が枝分かれしています。
この枝分かれした神経を「神経根(しんけいこん)」といいます。
下の絵では、首の骨をいくつか消してみて、中の脊髄の様子を見れるようにしました。
骨の中を太い脊髄が通っていて、左右にたくさんの細い神経(神経根)を分岐しているのがわかると思います。

頚椎症では、どちらの神経が圧迫されるかによって、大きく2つに分類されます。
① 頚椎症性神経根症

脊髄から枝分かれした神経根が圧迫されるタイプです。
神経根症では、主に以下のような症状が現れます。」

・首から肩、腕にかけての痛み
・片側の腕や手指のしびれ
・首を後ろに反らすと腕に痛みが走る
・腕や手の筋力低下
特に特徴的なのは、左右どちらか一方の腕に症状が出ることが多いという点です。
また、圧迫される神経根によって、しびれが出る場所も異なります。
首の神経は、Cの何番という表現をします。8本の神経が左右にあり、C1からC8まであります。
例えば、
・C6神経根:親指側
・C7神経根:中指付近
・C8神経根:小指側

各神経に対応した部位に症状が出ることがあります。
ただし、実際には神経の支配領域には個人差や重なりがあるため、しびれの場所だけで正確に判断できるわけではありません。
神経根症は自然に改善することも多い
ここは患者さんにぜひ知っていただきたいところです。
神経根症は、痛みが非常に強くても、時間の経過とともに改善するケースが少なくありません。
そのため、筋力低下が進行している場合などを除き、まずは薬物治療などの保存的治療を行うことが一般的です。
実際、強い腕の痛みで受診された患者さんでも、数週間から数か月で症状がかなり改善することがあります。
神経根症だからといって、すぐに手術が必要になるわけではありません。
なお、頚椎症と似た症状を起こす疾患に「頚椎椎間板ヘルニア」があります。
頚椎症は主に加齢による骨や椎間板の変性が原因ですが、椎間板ヘルニアでは椎間板の一部が突出して神経を圧迫します。
両者は合併することもあり、症状だけでは区別が難しい場合もあります。
② 頚椎症性頚髄症

首の中を通る脊髄そのものが圧迫されるタイプです。
手指の細かい動作が難しくなったり、歩行障害が現れたりします。
一般的には、神経根症よりも頚髄症の方が注意を要します。
こちらは神経根症よりも慎重な対応が必要です。
代表的な症状として、以下のようなものがあります。

・両手のしびれ
・箸が使いにくい
・シャツのボタンが留めにくい
・字が書きにくくなる
・歩くとふらつく
・階段を下りにくくなる
・足が突っ張るようになる
特に、手先の細かい動作が難しくなることや、歩行障害が現れることは重要なサインです。
脊髄は、脳と手足をつなぐ重要な神経です。
この脊髄が障害されると、手だけでなく足にも症状が出ることがあります。
また、神経根症と違い、脊髄の障害は進行すると回復が難しくなる場合があります。
頚髄症では手術のタイミングが重要
私は脊椎外科医として、数多くの頚髄症の手術を行ってきました。
その経験からも、頚髄症で特に重要だと考えているのは、手術を行うタイミングです。
症状が軽い段階では、患者さん自身も手術を受ける必要性を感じにくいものです。
しかし、症状が進行して歩行が困難になったり、手が十分に使えなくなったりしてから手術を行っても、期待したほど改善しないことがあります。
手術によって脊髄の圧迫を取り除くことはできますが、すでに傷んでしまった神経が完全に回復するとは限らないからです。
もちろん、軽症の頚髄症がすべて手術の対象になるわけではありません。
症状の程度、進行の速さ、MRI所見、日常生活への影響などを総合的に判断する必要があります。
ただし、明らかな症状の進行がある場合には、手術の検討を先延ばしにしないことが重要です。
また、脊髄が圧迫される疾患として「後縦靱帯骨化症」もあります。
こちらは頚椎症とは異なる疾患ですが、手足のしびれや歩行障害など、似た症状が現れることがあります。
頚椎症の原因は?

頚椎症の最大の原因は、加齢による変化です。
年齢とともに椎間板の水分が減少し、椎間板の高さが低くなったり、骨の一部が突出したりします。
このような変化は、ある程度誰にでも起こるものです。
また、長年の首への負担や体質なども関係していると考えられています。
スマホやパソコンが原因になる?

長時間のスマートフォン操作やデスクワークは、首の痛みや筋肉の緊張を引き起こすことがあります。
ただし、スマートフォンを使っているから頚椎症になる、と単純に言い切れるものではありません。
頚椎症の基本的な原因は、あくまで加齢性の変化です。
姿勢に気をつけることは大切ですが、過度に神経質になる必要はありません。
また、よく耳にする「ストレートネック」も、それ自体が病気というわけではありません。
頚椎のカーブが少ないことと、神経が圧迫されていることは別の問題です。
手のしびれは頚椎症とは限らない
ここも非常に重要なポイントです。
当院には、他の医療機関で頚椎症と診断されたものの、手のしびれがなかなか改善しないという患者さんもいらっしゃいます。
しかし、詳しく診察すると、しびれの原因が首ではないケースもあります。
代表的な疾患を紹介します。
① 手根管症候群

手首で正中神経が圧迫される疾患です。
親指、人差し指、中指などにしびれが出ることが多く、夜間や明け方に症状が強くなることがあります。
進行すると親指の付け根の筋肉が痩せ、物をつまむ動作が難しくなることもあります。
手根管症候群は、頚椎症と間違えられることがある代表的な疾患です。
② 肘部管症候群

肘の部分で尺骨神経が圧迫される疾患です。
主に小指と薬指の小指側にしびれが現れます。
進行すると、指を開いたり閉じたりする力が弱くなることもあります。
小指側のしびれは頚椎症でも起こるため、鑑別が重要です。
③ 胸郭出口症候群

首から腕に向かう神経などが、鎖骨周辺で圧迫されることによって症状が現れる疾患です。
腕を上げたときにしびれが強くなるなど、頚椎症とは異なる特徴がみられることがあります。
胸郭出口症候群は、頚椎症と診断されている患者さんの中に隠れていることもあります。
▶ 腕のしびれ、頚椎症と言われたけれど……実は「胸郭出口症候群」かもしれません
④ 脳梗塞などの脳疾患

突然、片側の手足にしびれや麻痺が現れた場合には、脳梗塞などの可能性も考えなければなりません。
特に、顔や足にも症状がある場合、ろれつが回らない場合などは注意が必要です。
突然発症した場合は、頚椎症と自己判断せず、速やかに救急受診する必要があります。
MRIで頚椎症が見つかっても、それが原因とは限らない
これは診断するうえで非常に重要です。
中高年以降では、MRIを撮影すると頚椎に何らかの変性が見つかることは珍しくありません。
しかし、それが現在のしびれの原因とは限らないのです。
例えば、頚椎MRIで神経の圧迫が確認されても、実際には手根管症候群がしびれの主な原因になっていることもあります。
また、頚椎症と手根管症候群が同時に存在している場合もあります。
私は、画像だけで診断するのではなく、症状の出方や神経学的所見を確認することが重要だと考えています。
頚椎症の診断にはMRIが重要

頚椎症の診断では、症状や神経学的所見を確認したうえで、必要に応じて画像検査を行います。
特に神経の圧迫が疑われる場合、MRIが非常に重要な役割を果たします。
MRIでは、
・椎間板の変性や突出
・神経根の圧迫
・脊髄の圧迫
・脊柱管の狭窄
・脊髄内部の信号変化
などを確認することができます。
一方、CTは骨の変形や骨棘などの評価に優れています。
レントゲンでは頚椎の配列や不安定性などを評価することができます。
これらの検査には、それぞれ役割があります。
MRIの異常と症状が一致するとは限らない
MRIで神経の圧迫が確認されても、それが現在の症状の原因とは限りません。
特に中高年以降では、無症状でも頚椎に変性がみられることがあります。
そのため、MRIの結果だけで手術が必要かどうかを判断することはありません。
大切なのは、画像所見と実際の症状、神経学的所見が一致しているかどうかです。
当院では、必要に応じて頚椎MRIを行い、症状の原因を詳しく調べています。
神経伝導速度検査が役立つこともある

手のしびれの原因が頚椎症なのか、手根管症候群や肘部管症候群なのか判断が難しい場合には、神経伝導速度検査が役立つことがあります。
神経伝導速度検査とは、神経に弱い電気刺激を与え、神経の信号がどの程度伝わっているかを調べる検査です。
当院では、手根管症候群や肘部管症候群などの評価に使用しています。
ただし、通常の神経伝導速度検査だけで頚椎神経根症を確定したり、完全に否定したりすることはできません。
あくまで診察や画像検査と組み合わせて判断することが重要です。
▶ 神経伝導速度検査とは?手足のしびれの原因を調べる検査について
頚椎症の治療方法
頚椎症の治療は、神経根症なのか頚髄症なのか、また症状がどの程度進行しているかによって異なります。
① 薬物治療

神経根症では、まず薬物治療を行うことが一般的です。
痛みの性質に応じて、消炎鎮痛薬や神経障害性疼痛に対する薬剤などを使用します。
症状が改善するまでには、ある程度時間がかかる場合もあります。
ただし、筋力低下が進行している場合や、強い痛みが続く場合には、早めに治療方針を見直す必要があります。
② 日常生活の工夫

首を無理に反らしたり、痛みが強くなる姿勢を長時間続けたりすることは避けた方がよいでしょう。
また、長時間同じ姿勢で作業する場合は、適度に休憩を取ることも大切です。
ただし、頚椎症だからといって、首をまったく動かさない方がよいというわけではありません。
症状に合わせて、無理のない範囲で日常生活を続けることが基本です。
③ 枕はどのようなものがよい?

頚椎症の患者さんから、枕について質問されることも少なくありません。
基本的には、首が極端に曲がったり、反ったりしない高さの枕がよいでしょう。
ただし、すべての方に適した枕というものはありません。
首の形や体格、寝る姿勢などによっても適切な高さは異なります。
また、高価な枕を購入したからといって、頚椎症そのものが治るわけではありません。
枕については、別の記事でも詳しく解説しています。
▶ 頚椎症・頚椎椎間板ヘルニアにおすすめの枕は?脳神経外科医が解説
④ 手術治療
保存的治療で改善しない神経根症や、進行性の頚髄症では手術を検討します。
代表的な手術には、以下のようなものがあります。
①頚椎前方除圧術

首の前側から神経を圧迫している椎間板や骨などを取り除く手術です。
必要に応じて固定術を併用します。
②頚椎椎弓形成術

首の後方から脊柱管を広げ、脊髄の圧迫を軽減する手術です。
複数の椎間にわたって脊髄が圧迫されている場合などに行われます。
このほかにも、神経根の圧迫部位を後方から除圧する手術や、頚椎の固定術などがあります。
どの手術が適しているかは、神経の圧迫部位、頚椎の配列、不安定性などによって異なります。
手術をすれば必ず治る?
残念ながら、必ずしもそうではありません。
特に頚髄症では、長期間にわたって脊髄が圧迫されていると、手術によって圧迫を解除しても症状が残る場合があります。
そのため、手術の目的は症状の改善だけではなく、さらなる悪化を防ぐことにもあります。
私は、頚椎の手術では、手術方法そのものと同じくらい、手術を行うタイミングが重要だと考えています。
頚椎症は放置しても大丈夫?
頚椎症があるからといって、必ずしも治療が必要になるわけではありません。
MRIで変性が見つかっても、症状がなければ経過観察でよい場合もあります。
また、神経根症では自然に症状が改善することも少なくありません。
一方で、以下のような症状がある場合には注意が必要です。
・手のしびれが徐々に悪化している
・手指の細かい動作が難しくなってきた
・腕や手の筋力が低下している
・歩きにくくなってきた
・階段を下りるときに不安定になる
・排尿の異常が新たに現れた
こうした症状は、脊髄の障害が進行しているサインの可能性があります。
特に、急速に筋力低下や歩行障害が進んでいる場合は、速やかな評価が必要です。
また、転倒などの外傷後に手足の麻痺が出現した場合には、脊髄損傷の可能性もあるため、救急受診が必要です。
まとめ|頚椎症で大切なのは、神経根症と頚髄
症を見分けること
頚椎症は、加齢とともに誰にでも起こり得る疾患です。
しかし、頚椎症があるからといって、必ずしも治療や手術が必要になるわけではありません。
大切なのは、どの神経が圧迫されているのか、実際に神経の障害が起きているのか、そして症状が進行しているのかを正確に判断することです。
特に神経根症と頚髄症では、治療方針が大きく異なります。
神経根症では保存的治療によって改善することが多い一方、頚髄症では手術のタイミングを逃さないことが重要です。
また、手のしびれの原因は頚椎症だけではありません。
手根管症候群や肘部管症候群、胸郭出口症候群など、ほかの疾患との鑑別も必要です。
当院では、脊椎外科での診療経験を生かし、神経学的診察やMRI検査などを組み合わせて、症状の原因を詳しく調べています。
手術が必要と判断した場合には、適切な専門医療機関への紹介も行っています。
首の痛みや手のしびれでお困りの方は、すぎなみ脳神経外科・しびれ・頭痛クリニックまでご相談ください。