頚椎症とは?
- 2023年2月17日
- しびれ
皆様、こんにちは。
すぎなみ脳神経外科。しびれ・頭痛クリニック院長の遠藤です。
今回は、『頚椎症』について解説していきたいと思います。
頚椎症とは?
頚椎というのは、せぼねの首の部分のことをいいます。
下の絵の水色の部分の骨が頚椎です。
全部で7個の骨で形成されています。
いわゆる『頚椎症』というのは、このせぼねの首の部分の骨が変形してしまう状態のことです。
そうなると内部にある神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫を受けてしまう状態のことをいいます。
下の絵は、頚椎を後、横、上からそれぞれ見た状態です。
上から見るとわかりやすいのですが、骨の真ん中に上から下まで続くトンネルのような空間があるのがわかると思います。
この空間を脊柱管と言います。
脊柱管は、せぼねの上から下まで続いていて、その中に脊髄(せきずい)という神経の束が通っています。
脊柱管が狭くなって中の脊髄やそこから出る神経が圧迫され、様々な症状がでてしまうことを『頚椎症』といいます。
腰でも同様のことが起きますが、その場合は腰部脊柱管狭窄症といいます。
腰部脊柱管狭窄症についてはこちらでまとめてあります。
首も腰もどちらも同じことが起こっているのですが、腰の場合は腰椎症という言葉はあまり使いません。
逆に首の場合は頚部脊柱管狭窄症という言葉はあまり使いません。
なぜか不明です。
どちらも医学的には間違いではないので使っても何ら問題はないのですが、あまり臨床で使った記憶がありません。
頚椎症の症状
脊髄(せきずい)は、長い筒状の形をして、首からお尻までつながっています。
腰より下の脊髄は、馬尾(ばび)と名前を変えます。
脊髄、馬尾ともに左右にたくさんの細い神経(神経根)が分岐して、体の様々な場所に分布します。
下の絵は、脊髄や神経根の分布を示しております。
真ん中に脊髄と馬尾がどっしりと君臨し、そこからたくさんの神経が左右に分布しております。
これを見ると、いかに脊髄が重要な神経だということがわかると思います。
下の絵では、首の部分を拡大してみました。
首の骨をいくつか消してみて、中の脊髄の様子を見れるようにしました。
骨の中を太い脊髄が通っていて、左右にたくさんの細い神経(神経根)を分岐しているのがわかると思います。
首の部分の脊髄を頚髄(けいずい)といいます。
頚髄から出る神経根は腕や指先に向かいます。
頚椎症では、この頚髄が障害を受けるので、初期症状で多いのは、手、指先、腕のしびれや痛みです。
少し症状が進んでしまうと手先を使った細かい作業(箸を使ったり、ボタンを開け閉めなど)がしにくくなります。
さらに症状が進み神経根だけでなく脊髄全体が障害されるようになると、歩行が不自由になってきたり、体全体がしびれてきたりします。
頚椎症の種類
頚椎症には、2種類あります。
脊髄から左右に複数の細い神経(神経根)が出て体の様々なところに分布するということは、症状の項目のところで申し上げました。
それらの脊髄や神経根が、頚椎の中に存在しているので、
頚椎症では、
神経根1本のみが圧迫を受ける場合と脊髄自体が圧迫を受ける場合があるのです。
これは、頚椎椎間板ヘルニアでも同様のことが起こります。
椎間板ヘルニアついてはこちらで詳しく書いていますので興味があればご参照ください。
神経根1本が障害を受ける場合を、
頚椎症性神経根症(けいついしょうせいしんけいこんしょう)
と言います。
脊髄自体が障害を受ける場合を、
頚椎症性頚髄症(けいついしょうせいけいずいしょう)
と言います。
※頚髄とは、首の部分の脊髄のことをいいます。
この2つは、MRIでほとんど区別がつくのですが、なかには区別が付きにくいものもあります。
これら2つの特徴を下にまとめておきます。
頚椎症性神経根症
頚椎症性神経根症は、どちらか片側の腕に症状が出ます。
神経根は細い神経なのですが、耐久性が強い神経で、ある程度のダメージなら時間が経つと改善することがほとんどです。
つまり神経根症と診断された場合、すぐには手術をしないで、まずは自然経過や内服治療で様子をみた方がいいでしょう。
痛みが激しいケースや急激に悪化するケースでは、手術を行う場合もあります。
頚椎症性頚髄症
頚椎症性頚髄症は、より重症になる傾向にあります。両側に症状が出たり、足に症状が出た場合は要注意です。
※首の脊髄の部分を頚髄と呼びます
脊髄は神経根よりはるかに太いのですが、非常に弱い臓器なのです。
全ての神経はまず脊髄から枝分かれして神経根になって体のすみずみまで行き渡ります。
つまり神経の親玉みたいなもので脊髄が損傷してしまうと首から下であれば、様々な症状が出てしまいます。
かといって親玉のくせにダメージに非常に弱く、いったん傷つくとなかなか改善しないという特徴があります。
頚椎症性頚髄症が進行すると、両手の動きが悪くなり、体全体がしびれたり、歩行に問題が出るようになってしまいます。
そうなってしまうと自然での改善は望めませんので、早めの手術を検討します。
頚椎症の原因
頚椎症の原因は、長年の首への負担と加齢です。
パソコンやスマホの長時間作業なども良くないとは言われていますが、結局は加齢性変化の影響が強い疾患です。
ただ、若い時からの予防は大事だと思います。
頚椎症の診断
診断のためには、MRIという検査が必須です。
CTでもある程度わかりますが、MRIには勝てません。
レントゲンではおおまかな程度しかわかりませんが、首を曲げたりそらしたりしながら撮影できるので、そうした動きが必要な時の補足検査としては役に立ちます。
正確な診断をご希望される場合は、MRIが撮れる医療機関を受診しましょう。
さらに脊椎の専門家が常勤している病院がよいでしょう。
頚椎症は、MRIではこのように見えます。
左が正常所見、右が頚椎症の所見です。
頚椎症の方では、脊髄が圧迫され細くなっているのが確認できます。
頚椎症の治療
軽症例はまず内服治療です。
内服治療を行っても改善が見られなかったり進行するものには、手術を検討します。
頚椎症性神経根の場合
頚椎症性神経根症は、先に申しましたように、ある程度自然軽快が期待できますので、数ヶ月くらいは内服治療を継続してみるのがいいかと思います。
内服治療で改善しない症例や進行例、症状が強い例などは手術を検討します。
神経根は耐久性が強いので、時間がかなり経過した症例でも手術をすれば改善が期待できます。
手術は、基本的には首の前側から入る頚椎前方除圧術という方法で行います。
首の前方には、気管や食道、頚動脈といった組織があります。
それらの間からかき分けるように頚椎まで到達し、神経根を圧迫している骨や靭帯などを切除します。
2時間程度の手術で、入院期間は1週間程度です。
術後に声がかすれることがありますが、ほとんど時間が立てば改善します。
頚椎前方除圧術について詳しく知りたい方は、以前の勤務先のホームページですが、私が作成したものがありますのでこちらを参照ください。
頚椎症性頚髄症の場合
頚椎症性頚髄症の場合でも軽症例では基本的にはまず内服治療を行います。
ただし神経根症と違ってあまり長期にわたって症状が持続しているケースだと、手術をしても改善しないことがあります。
また何かのきっかけに一気に悪くなってしまうケースもあります。
そして重症になればなるほど手術のリスクが高くなるという面もあります。
頚椎症性頚髄症の手術適応はなかなか難しいです。
軽症の段階であれば、手術リスクも低く症状も改善しやすいのはわかっています。
ただし日常生活にあまり困っていない状態なのに手術を受けたいと思う方はほとんどいませんし、医師側も気が引けます。
しかし、ここから悪化し日常生活に大きな支障をきたすようになってしまって、初めてここで手術を受けようと決意していただいた時には、手術がうまくいってもあまり症状の改善が得られないこともたびたびあります。
もちろんさらなる悪化の予防という点においては大きな役割を果たしていますが、症状の改善が満足に得られなかったという点は非常に患者さんにとってはストレスになってしまいます。
経験的には、理想的な手術のタイミングとしては、
日常生活に支障をきたす一歩手前
くらいで手術を踏み切れば、症状の改善が確実に得られるギリギリなところかなとは思っています。
客観的な重症度分類としては、JOAスコアという重症度を点数化するものがあります。
17点が満点であり、点数が低くなるほど重症になるという指標です。
JOAスコアが12点以下であれば手術をした方がいいとの一応の基準があることはあります。
ただ12点数以下だと相当病状が進行している場合もあり、そうなると手術での大幅な改善は難しいように思えます。
さらに4点以下の超重症の場合は、手術をしても改善は望めないとも言われています。
これに関しては同意見です。ここまで悪化してしまうと、残念ながら満足いく改善が得られるのはとても難しいです。
参考なまでにJOAスコアを載せておきます。
頚椎症性頚髄症の手術ですが、
症例によって、首の前から行なうか後ろから行なうかを検討します。
圧迫されている範囲が狭ければ前から、範囲が広ければ後ろから行うことが多いですが、最終的には脊髄全体のバランスを考えて決定します。
手術自体は、熟練した外科医であれば、問題なく行うことができますが、手術前の重症の度合いによって手術後の回復の度合いも変わってくるので、手術のタイミングがとても大事となってきます。
頚椎の手術について詳しく知りたい方は、以前の勤務先のホームページですが、私が作成したものがありますのでこちらを参照ください。
今回は、頚椎症についてのお話でした。
頚椎症でお悩みの方は、ぜひ、『すぎなみ脳神経外科・しびれ・頭痛クリニック』までご相談ください。