後縦靭帯骨化症とは?原因・症状・手術が必要になるケースを脳神経外科医が解説
皆様こんにちは。
すぎなみ脳神経外科・しびれ・頭痛クリニック院長の遠藤です。

今回は「後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)」について解説したいと思います。
なにやら難しい名前の病気ですね。
我々医療者は、英語の頭文字をとって「OPLL」と呼ぶことが多いです。
この病気は、首や背中の神経を圧迫することで、手足のしびれや歩行障害などを引き起こします。
また、国が指定する難病の一つでもあります。
私はこれまで脊椎外科医として、多くの後縦靭帯骨化症の患者さんを診察し、手術にも携わってきました。
今回は、後縦靭帯骨化症とはどのような病気なのか、どんな症状が出るのか、そしてどのような場合に手術が必要になるのかについて、なるべくわかりやすく解説していきたいと思います。
後縦靭帯骨化症とは?

まず「後縦靭帯」とは何なのでしょうか。
私たちの背骨は、首から腰まで、たくさんの骨が積み重なってできています。
その骨同士をつないでいる組織の一つが、後縦靭帯です。
後縦靭帯は、背骨の後ろ側、つまり脊髄の前側を縦に走っています。
下の図の青い範囲が、後縦靱帯です。

本来、靭帯は骨とは異なる柔軟な組織です。
ところが、この後縦靭帯が何らかの原因で骨のように硬くなってしまうことがあります。
これが後縦靭帯骨化症です。
ただし、靭帯が骨化しただけでは、必ずしも問題になるわけではありません。
問題は、骨化した靭帯が厚くなり、すぐ後ろにある脊髄や神経を圧迫してしまうことです。

脊髄は、脳から手足へと神経の情報を伝える、非常に重要な組織です。
この脊髄が圧迫されると、手足のしびれ、筋力低下、歩行障害など、さまざまな症状が現れるのです。
後縦靭帯骨化症の原因は?
実は、この病気の原因は、まだ完全には解明されていません。
現在、関係があると考えられているのは、次のような要因です。

・遺伝的な要因
・糖尿病
・肥満
・ホルモンや骨代謝の異常
・加齢など
特に日本人を含む東アジア人に比較的多く、男性に多いことが知られています。
また、中高年以降に発見されることが多い病気です。
ただし、糖尿病や肥満の方が必ず発症するわけではありませんし、家族に後縦靭帯骨化症の患者さんがいても、必ず遺伝するわけではありません。
さまざまな要因が複雑に関係して発症すると考えられています。
後縦靭帯骨化症の症状
後縦靭帯骨化症は、骨化が発生する場所によって症状が異なります。
背骨は、大きく分けて次の3つの部分に分かれます。
・頚椎(首)
・胸椎(背中)
・腰椎(腰)

後縦靭帯骨化症は、このいずれにも発生する可能性がありますが、最も多いのは頚椎です。
① 頚椎後縦靭帯骨化症

最も多いタイプです。
代表的な症状は、手や腕のしびれです。
さらに脊髄の圧迫が進むと、次のような症状が現れます。

・手や指先がしびれる
・箸が使いにくくなる
・ボタンを留めにくくなる
・字が書きにくくなる
・足がもつれる
・階段を下りにくくなる
・歩行時にふらつく
特に注意していただきたいのが、手先の細かい動作が難しくなることと、歩行障害です。
これらは、脊髄の働きが障害されている可能性を示す重要な症状です。
さらに進行すると、排尿障害などが現れることもあります。
なお、症状は頚椎症性脊髄症とよく似ています。
② 胸椎後縦靭帯骨化症

胸椎に発生した場合は、主に体幹や下半身に症状が現れます。

・足のしびれ
・足の脱力
・歩きにくさ
・胸やお腹の感覚異常
・排尿障害
頚椎と異なり、通常は手や腕に症状が出ません。
胸椎の後縦靭帯骨化症は、脊髄が圧迫されることで歩行障害が生じることがあり、注意が必要です。
また、胸椎の手術は頚椎と比較して難易度が高くなる場合があり、専門的な判断が必要となります。
③ 腰椎後縦靭帯骨化症

腰椎に発生するタイプは比較的まれです。
主な症状は、足のしびれや痛み、筋力低下などです。

腰部脊柱管狭窄症と似た症状を起こすことがあり、歩くと足がしびれ、休むと改善する「間欠性跛行」がみられる場合もあります。
ただし、腰椎の高さでは脊髄がすでに終わっていることが多いため、頚椎や胸椎とは神経障害の仕組みが異なります。
後縦靭帯骨化症は、症状がないことも多い

ここはぜひ知っておいていただきたいところです。
実は、後縦靭帯骨化症があっても、まったく症状がない方は少なくありません。
健康診断や、別の目的で撮影したCTなどで偶然見つかることもあります。
骨化があるからといって、必ず脊髄が障害されるわけではないのです。
また、骨化の大きさだけで症状の程度が決まるわけでもありません。
脊髄の圧迫の程度や首の動きなど、さまざまな要因が関係しています。
したがって、画像で後縦靭帯骨化症が見つかったからといって、すぐに手術が必要になるわけではありません。
後縦靭帯骨化症の診断|CTとMRIの違い
後縦靭帯骨化症の診断には、レントゲン、CT、MRIを使用します。
特に重要なのがCTとMRIです。
CT検査

CTは、骨化した後縦靭帯を確認するのに非常に優れた検査です。
骨化した部分が白く写るため、その大きさや広がりを詳しく確認できます。
骨化の形態や脊柱管の狭さを評価する際に役立ちます。
MRI検査

一方、MRIは脊髄の状態を調べるのに優れています。
MRIでは、骨化した靭帯そのものはCTほど明瞭には確認できない場合があります。
しかし、脊髄がどの程度圧迫されているか、脊髄内部に異常な信号変化が生じていないかを調べることができます。
つまり、
CTは骨化の状態を調べる検査、MRIは脊髄への影響を調べる検査
と考えていただくとわかりやすいと思います。
実際の診療では、症状や神経学的所見に応じて、これらの検査を使い分けます。
後縦靭帯骨化症で注意したいこと|転倒による頚髄損傷

後縦靭帯骨化症で特に注意していただきたいのが、転倒や交通事故などによる首のけがです。
頚椎の後縦靭帯骨化症では、脊髄が通るスペースが狭くなっていることがあります。
そのため、転倒して首に衝撃が加わった際に、脊髄を損傷してしまう危険性が高くなるのです。
場合によっては、骨折がなくても重い頚髄損傷を起こすことがあります。
特に脊髄が強く圧迫されている方は注意が必要です。
日常生活では、転倒を防ぐこと、首を強く反らせないことが重要です。
また、首を急激にひねったり、強い力を加えたりする施術は避けた方がよいでしょう。
後縦靭帯骨化症の治療
治療には、大きく分けて保存的治療と手術治療があります。
① 保存的治療

症状がない場合や、症状が軽い場合には、経過観察や保存的治療を行います。
痛みやしびれに対して薬物療法を行うこともあります。
ただし、ここで重要なことがあります。
薬によって、骨化した後縦靭帯そのものを元に戻すことはできません。
薬物療法は、あくまで痛みなどの症状を和らげるための治療です。
また、脊髄症状が進行している場合には、薬物療法だけで対応することは適切ではありません。
首への強い牽引や矯正などにも注意が必要です。
② 手術治療

脊髄が圧迫され、手足の運動障害や歩行障害などが生じている場合には、手術を検討します。
特に、
・手先が以前より不器用になってきた
・歩行障害が進行している
・筋力低下が進んでいる
・日常生活に支障が出ている
といった場合は、手術の必要性を慎重に判断する必要があります。
手術の目的は、脊髄への圧迫を取り除き、神経症状の悪化を防ぐことです。
ただし、手術をすれば必ずすべての症状が改善するわけではありません。
脊髄の障害が長期間続いていた場合などには、手術後も症状が残ることがあります。
そのため、適切な手術時期を判断することが重要になります。
後縦靭帯骨化症の手術方法
頚椎後縦靭帯骨化症の手術には、大きく分けて前方手術と後方手術があります。

①前方手術

首の前側から手術を行う方法です。
骨化した後縦靭帯に直接到達し、脊髄への圧迫を取り除きます。
骨化が非常に大きい場合や、首の骨の配列によって後方手術では十分な除圧が期待できない場合などに選択されます。
ただし、骨化した靭帯が脊髄を包む硬膜と癒着していることがあり、髄液漏などの合併症に注意が必要です。
②後方手術

首の後ろ側から手術を行う方法です。
代表的なものが椎弓形成術です。
後方の脊柱管を広げることで、脊髄が後ろ側に移動できるスペースを確保し、圧迫を軽減します。
頚椎後縦靭帯骨化症に対して広く行われている方法です。
ただし、骨化が非常に大きい場合や、頚椎が後弯している場合などには、十分な効果が得られないことがあります。
また、症例によっては固定術を併用することもあります。
前方手術と後方手術には、それぞれ長所と短所があります。
骨化の大きさ、頚椎の配列、脊髄の圧迫程度などを総合的に判断して、適切な方法を選択し、時には前方後方同時手術を行うときもあります。
後縦靭帯骨化症は、いつ手術するべき?

これは、脊椎外科医にとっても非常に重要な問題です。
例えば、CTでは大きな骨化が認められ、MRIでも脊髄が圧迫されている。
しかし、患者さん本人にはほとんど症状がない。
こうしたケースでは、手術をするべきかどうか、判断が難しいことがあります。
後縦靭帯骨化症は、転倒などをきっかけに急激に悪化する可能性がある一方、症状がほとんど進行しない方もいます。
そのため、症状がない方に対して、一律に予防的な手術を行うことは推奨されません。
一方、明らかな脊髄症状があり、それが進行している場合には、手術を積極的に検討します。
私自身、手術適応を判断する際には、画像だけでなく、患者さんの症状、神経学的所見、日常生活への影響などを重視しています。
画像が悪いからといって、必ずしも手術が必要なわけではありません。
反対に、画像だけではそれほど重症に見えなくても、症状が進行している場合には注意が必要です。
大切なのは、患者さん一人ひとりの状態に応じて判断することだと思います。
後縦靭帯骨化症は指定難病です

後縦靭帯骨化症は、国が定める指定難病の一つです。
一定の条件を満たした場合には、医療費助成制度を利用できる可能性があります。
ただし、後縦靭帯骨化症と診断された方全員が、助成の対象になるわけではありません。
原則として重症度の基準を満たすことが必要ですが、軽症であっても医療費が一定額以上となる月が続く場合には、軽症高額の制度に該当する可能性があります。
手術を検討している方や、医療費の負担が大きい方は、主治医や医療機関の相談窓口、自治体の担当窓口に確認してみるとよいでしょう。
こんな症状がある場合は早めに受診を

後縦靭帯骨化症は、無症状のまま経過することもあります。
しかし、次のような症状が現れた場合には注意が必要です。
・手足のしびれが徐々に悪化している
・箸やボタンなど、細かい作業が難しくなった
・歩くとふらつくようになった
・階段の上り下りが難しくなった
・手足に力が入りにくくなった
これらの症状は、脊髄が圧迫されているサインかもしれません。
特に、急激な手足の麻痺や歩行不能、急な排尿障害が現れた場合には、速やかな救急受診が必要です。
まとめ

今回は、後縦靭帯骨化症について解説しました。
後縦靭帯骨化症は、背骨の中にある靭帯が骨化する病気です。
骨化した靭帯が脊髄を圧迫すると、手足のしびれや歩行障害などを引き起こすことがあります。
ただし、骨化が見つかったからといって、必ずしも症状が出るわけではなく、すべての患者さんに手術が必要なわけでもありません。
重要なのは、CTやMRIによる画像評価に加え、実際の神経症状をきちんと確認することです。
特に、手先が不器用になったり、歩行障害が現れたりした場合には、早めに専門医に相談することをおすすめします。
当院では、手足のしびれや歩行障害などの症状について、神経学的診察を行い、必要に応じてCT・MRIによる検査を実施しています。
手足のしびれなどでお困りの方は、お気軽にご相談ください。
この記事が皆様の参考になれば幸いです。
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