頭痛薬の飲みすぎで頭痛が悪化する?薬剤の使用過多による頭痛(MOH)について
- 2023年12月7日
- 頭痛
皆様、こんにちは。
すぎなみ脳神経外科・しびれ・頭痛クリニック院長の遠藤です。

当院は、クリニックの名称のとおり、頭痛やしびれの診療に力を入れています。
今回は、頭痛専門医の立場から、ぜひ知っていただきたい「薬剤の使用過多による頭痛」についてお話ししたいと思います。
以前は「薬物乱用頭痛」「薬剤乱用頭痛」とも呼ばれていた病気で、英語では Medication Overuse Headache、略してMOHといいます。
「頭が痛いから薬を飲む。薬が切れるとまた痛くなるので、再び薬を飲む」
こうした状態が続いている方はいらっしゃいませんか?
実は、頭痛薬を頻繁に使用することで、かえって頭痛が悪化してしまうことがあるのです。
決して珍しい病気ではなく、頭痛診療では非常に重要な疾患の一つです。
1.薬剤の使用過多による頭痛(MOH)とは?

MOHとは、もともと片頭痛や緊張型頭痛などがある方が、頭痛薬を頻繁に使用することで、頭痛が慢性化したり、悪化したりする状態です。
例えば、最初は月に数回だった片頭痛が、次第に週に何回も起こるようになり、そのたびに頭痛薬を飲むようになる。
すると、さらに頭痛が増え、気がつけばほぼ毎日薬を飲んでいる。
このような悪循環に陥ってしまうことがあります。
ここで強調したいのは、患者さんが好きで薬を飲みすぎているわけではないということです。
頭痛がつらいから薬を飲むのです。
しかし、結果として頭痛薬の使用が増え、さらに頭痛が治りにくくなってしまう。
これがMOHの厄介なところです。
2.なぜ頭痛薬の飲みすぎで、頭痛が起こるの?

頭痛を治すための薬が、逆に頭痛を悪化させる。
少し不思議に感じるかもしれません。
その仕組みは、まだ完全には解明されていません。
ただし、頭痛薬を頻繁に使用することによって、脳の痛みを調節する仕組みに変化が起こり、痛みに敏感な状態になることなどが関係していると考えられています。
もともと片頭痛を起こしやすい方では、こうした変化によって頭痛が慢性化する可能性があります。
また、頭痛が起こることへの不安から、痛みが強くなる前に薬を飲む習慣がついてしまう場合もあります。
頭痛が増える → 薬を飲む回数が増える → さらに頭痛が増える
この悪循環を断ち切ることが、治療の重要なポイントになります。
3.どの頭痛薬が原因になるの?
MOHは、市販薬でも処方薬でも起こる可能性があります。
代表的なものは以下のとおりです。
① 市販の頭痛薬

バファリン、イブ、ノーシン、セデスなど。
ただし、これらは商品によって成分が異なります。
② 医療機関で処方される一般的な鎮痛薬

ロキソニン、カロナール、ボルタレンなど。
③ 片頭痛の急性期治療薬

スマトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタンなどのトリプタン系薬剤。
④ 複数の成分が配合された鎮痛薬
SG顆粒や市販の複合鎮痛薬。
このように、一般的な鎮痛薬だけでなく、片頭痛の特効薬であるトリプタンでもMOHは起こり得ます。
一方、比較的新しい片頭痛治療薬であるゲパント系薬剤は、従来の鎮痛薬やトリプタンと比べてMOHを起こしにくい可能性が指摘されています。
ただし、長期的なデータには限界があり、どれだけ頻繁に使用しても問題ないという意味ではありません。
4.頭痛薬は月に何日までなら大丈夫?

ここは、ぜひ覚えていただきたいポイントです。
MOHを考える際に重要なのは、1回に何錠飲んだかだけではなく、1か月のうち何日頭痛薬を使用したかということです。
国際頭痛分類(ICHD-3)では、薬剤の種類によって使用過多の基準が異なります。
| 頭痛薬の種類 | 使用過多の目安 |
|---|---|
| ロキソニンなどのNSAIDs | 月15日以上 |
| カロナールなどのアセトアミノフェン | 月15日以上 |
| トリプタン系薬剤 | 月10日以上 |
| 複合鎮痛薬 | 月10日以上 |
| 複数種類の急性期治療薬を使用 | 合計で月10日以上となる場合がある |
これらの使用状況が3か月を超えて続いていることが、診断上の重要な条件になります。
ただし、この日数に達したら必ずMOHになるというわけではありません。
また、日数が基準未満でも、頭痛薬の使用頻度が増えている場合には注意が必要です。
私は、頭痛薬を使う日が月に10日程度になってきたら、一度治療方針を見直した方がよいと考えています。
特に、週に2〜3日以上頭痛薬を使用している方は、予防治療を検討するよいタイミングかもしれません。
なお、同じ日に2回薬を飲んでも、使用日数としては1日です。
反対に、違う薬を別々の日に飲んだ場合には、それぞれの使用日を確認する必要があります。
5.MOHにはどんな特徴があるの?
MOHでは、次のような症状や経過がみられることがあります。

・ほぼ毎日のように頭痛が起こる
・朝起きたときから頭痛がある
・頭痛薬を飲んでも、また痛くなる
・以前より頭痛薬が効きにくくなった
・頭痛の場所や性質が一定しない
・頭痛薬を持っていないと不安になる
・頭痛のために仕事や日常生活に支障が出ている
ただし、これらはMOHだけに特有の症状ではありません。
慢性片頭痛などでも同じような症状がみられます。
実際には、慢性片頭痛とMOHが同時に存在していることも少なくありません。
そのため、頭痛の特徴や薬の使用状況を詳しく確認することが重要です。
6.MOHの診断基準は?
国際頭痛分類では、MOHの診断に次のような条件が用いられています。

① もともと頭痛の病気があり、現在は月15日以上頭痛がある
② 急性期の頭痛治療薬を、薬剤ごとの基準を超えて3か月より長く使用している
③ ほかの診断で、より適切に説明できない
つまり、頭痛薬をたくさん飲んでいるというだけでは、MOHとは診断できません。
もともとの頭痛の種類や、頭痛の日数、薬を使用している日数などを総合的に判断します。
なお、MOHの診断に、薬を中止して頭痛が改善したことの確認は必須ではありません。
7.MOHはどうやって治療するの?
ここが最も重要なところです。
以前は、原因となっている頭痛薬を中止することが治療の中心でした。
もちろん、現在でも薬剤の使用過多を改善することは非常に重要です。
しかし、単に「頭痛薬を飲まないように頑張ってください」というだけでは、なかなかうまくいきません。
頭痛がつらいから薬を飲んでいるわけですから、薬を減らすだけでは患者さんに大きな負担がかかってしまいます。
そこで重要になるのが、頭痛の予防治療です。

① 頭痛の予防薬を使用する
もともとの片頭痛などをしっかり治療し、頭痛が起こる回数そのものを減らしていきます。
片頭痛の予防薬としては、
・プロプラノロール(インデラル)
・バルプロ酸(デパケン)
・アミトリプチリン(トリプタノール)
・CGRP関連薬
などが選択肢になります。
もちろん、すべての方に同じ薬を使用するわけではありません。
頭痛の種類や頻度、年齢、持病、妊娠の可能性などを考慮して選択します。
近年はCGRP関連薬の登場によって、従来の予防薬で十分に改善しなかった片頭痛にも、治療の選択肢が広がっています。
MOHを合併した慢性片頭痛でも、CGRP関連薬が有効なケースがあります。
ただし、CGRP関連薬は薬価が高いため、治療効果だけでなく、患者さんの経済的な負担も考慮して選択する必要があります。
② 頭痛薬の使用回数を減らす
予防治療と並行して、原因となっている頭痛薬の使用頻度を減らしていきます。
薬剤の種類や使用状況によって、一度に中止する場合もあれば、段階的に減らす場合もあります。
特に、オピオイドやバルビツール酸系成分を含む薬剤などでは、自己判断で急に中止せず、医師の管理下で慎重に減量する必要があります。
また、急性期の頭痛薬を完全に使えなくすることが目標ではありません。
必要なときには適切に使用しながら、使用過多の状態から抜け出すことが大切です。
③ 最初は一時的に頭痛が悪化することもあります
頭痛薬の使用を減らした直後には、一時的に頭痛が強くなることがあります。
吐き気や睡眠障害などが現れる場合もあります。
ただし、こうした症状が必ず起こるわけではありません。
また、予防薬の効果が現れるまでの期間も、薬剤によって異なります。
数週間から数か月かけて効果を評価する薬剤もあります。
そのため、治療開始後の経過を確認しながら、無理のない方法で治療を進めていきます。
8.頭痛薬を飲むこと自体が悪いわけではありません

ここは誤解してほしくないところです。
頭痛薬は、必要なときにはきちんと使用してよい薬です。
特に片頭痛では、適切なタイミングで急性期治療薬を使用することが重要です。
痛みを我慢し続けることが、よい治療というわけではありません。
問題になるのは、頭痛薬を頻繁に使用しなければ日常生活を送れない状態が続いていることです。
そうなっている場合には、頭痛薬をさらに増やすのではなく、頭痛そのものを減らす治療を考える必要があります。
また、頭痛が急に増えた場合には、MOHと決めつけず、ほかの病気が隠れていないかを確認することも大切です。
9.治療すれば改善するの?

MOHは、適切な治療によって改善が期待できる病気です。
薬剤の使用過多を改善し、もともとの頭痛に対する予防治療を行うことで、頭痛の日数が減っていく方も多くいらっしゃいます。
ただし、長期間にわたって頭痛が続いていた場合などには、治療に時間がかかることもあります。
また、一度改善しても、再び頭痛薬の使用が増えることで再発する場合があります。
そのため、治療後も頭痛の頻度や薬の使用日数を確認していくことが重要です。
私は、患者さんに頭痛の日数と頭痛薬を使用した日数を記録していただくことをおすすめしています。
頭痛ダイアリーをつけることで、治療効果もわかりやすくなります。
10.頭痛薬を頻繁に飲んでいる方は、一度ご相談ください
頭痛薬を頻繁に使用している方の中には、「もう薬が効かなくなってきた」と感じている方もいらっしゃいます。
しかし、そこで頭痛薬を増やし続けても、根本的な解決にならないことがあります。
大切なのは、なぜ頭痛が頻繁に起こっているのかを見極めることです。
当院では、頭痛専門医の立場から、片頭痛や緊張型頭痛などの診断を行い、必要に応じてMRIなどによる精査を行っています。
また、従来の内服予防薬からCGRP関連薬まで、患者さんの頭痛の状態に応じた治療を検討しています。
頭痛薬を頻繁に飲んでいる方でも、治療によって頭痛の回数を減らせる可能性があります。
「頭痛薬を飲まないと生活できない」という状態を、少しずつ改善していくことが治療の目標です。
まとめ
薬剤の使用過多による頭痛(MOH)は、頭痛薬を頻繁に使用することで、頭痛が慢性化・悪化する病気です。
市販薬でも処方薬でも起こる可能性があり、薬剤の種類によっては月10日以上の使用が続くと注意が必要です。
治療では、原因となっている薬剤の使用頻度を減らすことに加え、もともとの片頭痛などに対する予防治療が重要です。
頭痛薬を我慢するだけが治療ではありません。頭痛そのものを減らし、薬に頼りすぎなくても生活できる状態を目指すことが大切です。
頭痛薬を使用する回数が増えてきた方、以前より薬が効きにくくなってきた方は、ぜひ一度ご相談ください。